社会人になって初めて就職したコンサルティング会社は、「フリータイム制」という、当時では非常に斬新な勤務形態を採用していました。
1日の中でこの時間だけは出社しなさいと決められた「コア・タイム」を飛び越えて、1ヶ月の中でこの日だけは出社しなさいという「コア・デイ」だけが定められており、それ以外の時間の使い方は各コンサルタントの裁量に任されていました。
この制度に魅力を感じて入社を決めた同期も多かったと記憶しています。
それくらい満員電車の通勤地獄から解放され、「自由に働き方を選択できる」ということは魅力的なのだと思います。
同社のフリータイム制が、私たち新人が思い描いていたバラ色の働き方だったかどうかはさておき、新型コロナウィルスのパワー・プレーによって、「テレワーク」は働き方に関する話題の中心に躍り出ました。
私の職業は経営コンサルタントです。この仕事は、多くのクライアントを担当するようになると、あまり会社へは行きません。
働く場所は、クライアント企業、自宅、カフェ、コワーキングスペースと日によってさまざまです。
働く時間帯も、休日も、一応目安はあるものの、クライアントの都合によって区々となります。
つまり、完全なテレワークです。
新型コロナウィルスの感染拡大によって、テレワークをする方も増えました。
巷にも「テレワークでも生産性高く働くには?」、「Web会議の上手な進め方は?」、「オンライン商談の成功のポイント」など、「テレワーク×働き方」をテーマにした情報も増えてきました。
「何事も10年やれば一人前」といわれますが、私のテレワーク歴は通算すると20年以上になります。
すでに一人前になっていてもおかしくないだけの時間を投下していますので、このタイミングで、テレワークをスタートされた皆さんのお役に立つような情報を提供したいと考え、今回の執筆に至りました。
この記事を読んだ方が、テレワークのコツを理解し、少しでもご自身の仕事の価値を高めるヒントを得ていただければ嬉しいです。
テレワークに必要な3つの力
弊社では緊急事態宣言が発令される少し前の、令和2年3月30日から緊急事態宣言の解除が発表されるまでの約2カ月間、全社員がテレワークをしました。解除後も、状況を鑑みながら、出社しての勤務とテレワークの二刀流で仕事をしています。
クライアント企業でも、積極的にテレワークが導入されたことにより、お客さまとのオンライン会議システムを介して打合せをする機会も増えました。
ホームページにお問い合わせをいただいたお客さまに対して、最初の商談をオンラインでやったりもしました。
つまり、この短期間にたくさんのビジネス・パーソンのテレワークに触れたことになります。
テレワークでもサクサクと仕事を進める方がいる一方で、テレワークになるとすっかり仕事が滞ってしまう方もいらっしゃいます。
たくさんのテレワーカーと接して、気づいたことがあります。
それは、テレワークには、「自己管理能力」、「テレ・コミュニケーション力」、「成果創出力」という3つの能力が必要であり、この3つが揃っていないとテレワークをしても思ったような成果が上げられないということです。
もう少し、詳しくご説明しましょう。
01. 自己管理能力
テレワークの最大の弱点は、オフィスと同じ緊張感、集中力が保ちにくいことです。
お気に入りの音楽を大音量で聞くこともできるし、昼食後にベッドやソファで昼寝をすることもできます。
子どもが猫なで声で「遊んで」とせがんでくるかもしれませんし、親が気にして様子を見にくるかもしれません。
宅急便の受け取りに駆り出されるし、家族からLINEに「雨が降りそうだから洗濯物を取り込んで!」とメッセージが送られてきて、不意に家事をしなければならないこともあります。
通勤時間がなくなった分、朝寝坊や夜更かしが習慣になり、生活のリズムを崩してしまう人もいます。
出社している時には、お昼御飯くらいは、近所の定食屋でバランスのいい食事をしていたのに、テレワークになった途端に3度の食事がすべてコンビニ弁当になってしまったという若手社員もいます。
テレワークの場合、パソコンとスマホさえあれば、際限なく仕事ができてしまうので、出勤しているときよりも労働時間が長くなってしまう方もいるでしょう。
弊社の始業は9時30分ですが、私も自宅で仕事をする時には、8時30分には、パソコンの電源を入れるのがルーティーンになっています。
コピーのためにコピー機まで歩いたり、プリンターに印刷物を取りに行ったり、コーヒーを淹れるために給湯室まで歩いたり、会議室へ移動したりする際の運動もバカにできません。
テレワークでは、電話も、会議もすべて自席でおこなうため、これらの動きが激減します。
長時間座り続けた結果、エコノミークラス症候群や運動不足も懸念されます。
家族以外の人とコミュニケーションを取る機会が少なくなるため、心身の異変に気づきにくくもなります。
「最近調子どう?」、「顔色、いいね!」「少し疲れてる?」など、職場の仲間が掛けてくれる言葉は、意外と自分を客観的に判断するバロメーターになっています。
他人が見ていないからといって手を抜くのは問題ですが、仕事に投下できる時間が増える中で、頑張りすぎてしまうのも問題です。
また、仕事への没入度合いだけでなく、食生活や運動、睡眠などの体調面、情緒や精神などのメンタル面、これらすべてをいい状態に保つために必要となるのが自己管理力です。
02. テレ・コミュニケーション力
テレワークという言葉をWikipediaで調べると、「勤労形態の一種で、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働く形態をいう。「tele=離れた所」と「work=働く」をあわせた造語。」
と書かれています。簡単にいうと、「離れた場所でする仕事」です。
このテレワークで頭を悩ませるのが、コミュニケーション。
まず、量(=頻度)が激減します。
同じ職場に出社していれば、すれ違いざまに「例の件、順調?」と業務の進捗を確認したり、「相談したいことがあるんですけど、ちょっといいですか?」と上司の時間を拝借したりと隙間を埋めるような、ちょっとしたライトな、コミュニケーションが存在していました。
しかし、テレワークになると、ちょっとしたライトな、コミュニケーションが取りづらくなります。
LINEなどのSNSの活用が期待されますが、仕事で関わるすべての世代に受け入れられるかといえば、答えはNOです。
そして、コミュニケーションの質が、人の能力によって大きくバラつくという問題も発生します。
単にメールの文章が分かりやすいとか、要領を得ているとかいうレベルの話ではありません。
テレワークでは、メールを筆頭に、ショートメッセージ、SNS、ビジネスチャット、オンライン会議システムなどの新しいツール、そして電話&FAXという古典的なツールまで、さまざまな通信手段を活用します。
少し経てば、さらに新しいコミュニケーション・ツールが出現するでしょう。
このようにトレンドが目まぐるしく移り変わる中で、離れた場所で仕事をする人と、円滑に情報伝達ができなければいけないわけです。
しかも、この「人」は、ツーカーで分かり合える同世代とは限りません。
「承知しました」という返事を、親指を立てたキャラクターのスタンプで返す若手社員とも、「面倒くさい」を理由にメールを使わず、何でもかんでも電話で確認してくる上司とも、「SNSで仕事上の情報交換をするなんてけしからん!」という厳格な基準を持っているお客さまとも、うまく情報共有しなければならないのです。
年代によって、主流になっているコミュニケーション・ツールやコミュニケーションに対する常識が異なります。
その傾向は、対面でのコミュニケーション以上に非対面型のコミュニケーションにおいて顕著です。
テレ・コミュニケーション力は、世代を問わない共通の問題なのです。
03. 成果創出力
テレワークが主流の働き方が浸透した世界では、評価のやり方も変わってくると予想されます。
どのような変化が起きるのでしょうか?
最も大きな変化は、成果で評価されるウェイトが大きくなるということです。
これまでも成果による評価はおこなわれていましたが、成果創出におけるプロセスでの頑張りも、階層や等級に応じて加味されていました。それが可能だったのは、同じ職場に出社し、仕事ぶりを目にすることができたからです。
眉間にシワを寄せながら、腕組みをしてパソコンの画面を見つめていると、レベルの高い仕事に向き合っているように見えたわけです。
しかし、テレワークになると、この頑張っている姿を周囲に見せることができなくなります。
ハッキリいえば、パソコンの前でどれだけ考えこもうが、成果と呼ぶに値するアウトプットがなければ評価はゼロになってしまうということです。
仕事ができる人、自力で成果を生み出せる人には歓迎すべきルールの変更です。
しかし、頑張りをアピールしてきた人、自力で成果を生み出すレベルにない人にとっては、戦々恐々の事態といえるでしょう。
冒頭の文章で、私は就職先であったコンサルティング会社の「フリータイム制」に魅力を感じて入社を決めたとお話をしました。
実際のところ、この制度の恩恵に与れなかった最大の要因は、入社したばかりの私には、自力で会社から期待される成果を生み出す力がなかったことに尽きると思います。
自分に力がなければ、誰かに助けてもらうしかありません。
助けを求める対象の上司や先輩にも自分の仕事があり、四六時中、私の相談に乗るわけにもいきません。
日中、彼らの時間を奪うのは申し訳ないとの思いから、早朝や夜に時間を取ってもらおうとすると必然的に労働時間は不規則で長くなっていきました。
したがって、フリータイム制という制度があったとしても、私のような立場の人間には、自分で働く時間を選ぶ自由などはありませんでした。
相談の時間を取ってもらえれば良い方で、タイムリーに時間を取ってもらえなければ無為な時間だけが過ぎていくことになります。
正直、これはかなりキツかったのを覚えています。
テレワークで生産性が上がらない人の共通点
テレワークで成果を出すために必要な「3つの能力」についてはご理解いただけましたか?
しかし、3つの能力を身につけても、なかなかテレワークで生産性が上がらない人もいます。
そういった人はみなさん、以下の共通する5つの考え方を持っていると考えられます。
- 「自分が楽だから」から思考がスタートしている
- これまでの仕事のやり方に固執する
- 時間当たりの成果を意識していない
- テレワークで生産性を上げるための工夫や投資をしていない
- せっかくの「ギフトタイム」をダラダラ過ごす
上記の5つの考え方について、ひとつずつ解説していきます。
01. 「自分が楽だから」から思考がスタートしている
テレワークは、働き方の選択肢の一つに過ぎません。
テレワークという選択肢を選ぶ基準は、「どの働き方がいい仕事ができるのか?」、「どの働き方が質の高い成果を上げられるのか?」でなければなりません。
テレワークの方が、質の高い成果を出すことができ、お客さまも喜んでくれて、会社にも貢献できるなら、迷うことなくテレワークを選択すればいいでしょう。
反対に、出社して仲間とワイワイとディスカッションをした方がいいアウトプットを出せるなら、迷わず出社すればいいのです。
これが大前提になければなりません。
ただし、私たちはワーカーであると同時に家庭人でもあります。中には、呼吸器に疾患を抱えた家族と同居している方もいるでしょう。
共働きでパートナーがキャリアの重大局面に差し掛かっていて、何とか力になってあげたいと切望している方もいると思います。
そういった個人の事情が考慮されるのは、その個人が上述した大前提を理解してくれているからこそです。
この大前提をすっ飛ばして、個人の事情からテレワークを希望するタイプの人は、テレワークになると「ゆるい」働き方になってしまう傾向があります。
余談ですが、セミナーなどで、講師が「私は自分が怠け者なので、自分が楽をするために●●を考えました!」というストロークをしますが、真に受けないでくださいね。
あれは、受講者との心の距離を縮めるテクニックでしかありません。
ご本人は怠け者という自覚があるかもしれませんが、客観的に見れば、相当の努力家です。
そうでなければ、他人様を惹きつけるようなノウハウやシステムを開発できるわけありませんから。
02. これまでの仕事のやり方に固執する
これは特に上司の立場にある方に見られる傾向です。
出社至上主義、対面至上主義を振りかざし、「会議は、顔を合わせないとやった気がしない」、「営業は靴の踵を擦り減らしてナンボだ」などといって、新しいやり方を受け入れようとしません。
こういう考え方をする人の質が悪いところは、受け入れないだけでなく、代替案を出さないこと。
自分は会社の近くに住んでいるのでタクシーや自転車で出社します。担当顧客も持っていないので外出もほとんどありません。
だから、「ちょっと我慢すれば、これまで通りで何とかなる」という発想から抜け出せないのです。
また、テレワークになると部下がサボるんじゃないかと心配になって、出社していた時以上に、監視意欲が高まっている上司がいます。
心配するのは、サボっているかどうかではなく、成果を上げる方法がわからずに困っているのではないかです。
部下や仲間を信用できない人は、自分の仕事に集中できず、管理工数ばかりが膨らんで、生産性の高い仕事は難しくなります。
03. 時間当たりの成果を意識していない
テレワークで大切なのは、自分の仕事に対する成果を意識する力です。
たとえ、長期間に亘る業務であっても、時間の単位を細かく分解して、今日1日でどのような成果を出すのか、この1時間でどのような成果を出すのか、何をアウトプットするのかを意識できる人が生産性の高い仕事をできます。
仮に、上司が1時間おきに電話してきて、「この1時間の成果は何?」と尋ねられても「●●です!」と断言できるくらいにならなくてはいけません。
(そんなことをする上司が実際にいたら私は猛烈に抵抗すると思いますが・・・)
したがって、「出社して、デスクにつき、何となく仕事をスタートさせ、終業時刻が来たら仕事を終える」という働き方が染みついてしまっている人、1日の成果が何だかわからないまま作業として、指示されたことをこなすだけの人、自分にどのような成果が求められているのかがわからない人は、テレワークになると1日が長く、精神的にもしんどくなるはずです。
ちょうど、受験生の時に、学校や予備校で勉強していると時間が経つのが速いと感じられるのに、自室や図書館で勉強する1日が異常に長く感じる感覚に似ています。
勉強の目的が定まっておらず、「とにかく受験生だから勉強しなきゃ」という意識の受験生ほど、自習の時間がしんどかったはずです。
彷徨える受験生のようにならないためにも、時間当たりの成果を意識して仕事に臨んでください。
04. テレワークで生産性向上を上げるための工夫と投資をしない
実際にテレワークをしてみると、いろいろな不便や不都合を感じることも多かったのではないでしょうか?
例えば、職場では大型モニターを使っているのに、家ではノートパソコンしか使えないとなれば、それだけで生産性は2~3割は落ちてしまうと思います。
デュアル・モニターで仕事をしている方が、シングル・モニターになっても相当不便でしょう。
オンライン商談の時、カメラに会社案内や説明資料を近づけてプレゼンする人がいましたが、商談に使う可能性のある資料は、すべて事前にパソコンにデータとして取り込んでおき、画面共有機能を使うのがスマートです。
また、ノートにシャープペンシルやボールペンで書いた文字は、カメラを通すと線が細く、見えにくいため、オンライン商談ではナプキン・プレゼンテーションがやりにくいです。
そういう不便や不都合に出くわした時、現状を我慢し続ける人と、コストをかけてでも直ぐに改善する人がいます。
22~28インチの大型モニターは、新品でも1~2万円、中古品なら3,000円台で購入可能です。
十分に個人で購入できる金額ですし、生産性が上がることをアピールすれば会社も購入を検討してくれるでしょう。
私は、ナプキン・プレゼンテーションのやり難さを感じたオンライン商談の翌日に、100円ショップへ行き、A4サイズのホワイトボードと赤と黒のボードマーカー、ボード消しを購入しました。
税込み330円の投資ですが、その後のオンライン商談や会議で大活躍しており、すでに元は取ったと言えます。
テレワークで生産性が上がらない人は、そういう不便や不都合になかなか気がつきません。
もし、気づいても投資をせずに我慢をして、生産性が低いままの仕事を続けてしまうのです。
05. せっかくの「ギフトタイム」をダラダラ過ごす
テレワークをすると、往復の通勤時間をはじめ、時間に余裕が生まれます。
私は、この時間を「テレワークが与えてくれた贈り物」という意味を込めて、「ギフトタイム」と呼んでいます。
皆さんは、オフィスへ出社することがノーマルだった時、時間があったら何かをしたいと思ったことはありませんか?
実際に時間ができた今回のテレワークで、皆さんはギフトタイムをどのように活用しましたでか?
せっかくのギフトタイムが、ゴロ寝や無為なYouTube視聴ではあまりにももったいないですよね。
ジョギングや散歩、瞑想、ヨガなど美や健康のために使ってもいいし、語学や資格取得のための勉強に読書もいいでしょう。
忙しい時には観られなかった映画鑑賞もいいし、日頃何もしていなかった方は料理や洗濯などの家事もいいですね。
とにかく、目的的に、自分にとってプラスのことに使ってもらいたいのです。
ギフトタイムを目的的に活用できる人は、時間に対する意識が高い方だといえます。
新卒で入社した前出のコンサルティング会社で「時間は唯一平等に与えられた経営資源である」ということを教えてもらいました。
増やすことも、貯めることもできません。
午前0時になると24時間、1440分、86,400秒が各人の口座に振り込まれ、24時にはゼロになります。
某国の大統領でも、国民的アイドルも、私のような凡人でも、すべての人間に平等に与えられます。
「時間」をどのように使うのかは、本人の意思次第であり、使い方によって、それほど遠くない未来に大きな差になって現れるということを肝に銘じたいものですね。
以上の5つが、私たちが考えるテレワークで生産性が上がらない人の共通点です。
文章にまとめていて気づいたのですが、これらの共通点は、5を除けば、決してテレワークに限ったことではなく、これまでの仕事においても同じことがいえそうです。
テレワークで生産性を上げるための条件
日経BP総合研究所が実施した、テレワークに関する調査では、生産性が下がった回答した人の割合が6割以上という結果が出ています。
この調査は、「テレワークを利用している」という回答者に対して「あなたのテレワーク利用による生産性は、普段、職場で仕事に取り組む場合を100とした場合、どれくらいですか」と質問しています。
この調査結果を高いと見るか、低いと見るかは意見の分かれるところでしょう。
元旦の朝しか休まないモーレツ経営者として知られる日本電産の、永守 重信会長は、定時株主総会後の記者会見で、「導入当初は、生産性が3分の1まで落ちた」という主旨のコメントを残しています。
テレワークができずに休業を余儀なくされる職種もあったことを加味すると3分の1という数字はあながち言い過ぎとはいえないかもしれません。
永守会長も「生産性3分の1」を盾に、「テレワークをけしからん」といっているわけではありません。
日本のテレワークは、まだまだ発展途上であり、改善の余地が大きい。したがって、家庭にパソコンとWi-Fiを用意すればいいという、かんたんな話ではないと警鐘を鳴らしているのだと推察します。
テレワークで高生産性を実現するチェックリスト
では、どのような条件を整えたら上手くいくのか?
私たちなりにテレワークで生産性高く仕事をするための条件についてチェックリストにまとめてみました。ぜひ、ご活用ください。
カテゴリー | チェック項目 | ✔️ |
労働者の能力(適性) | 自分で労働時間、業務進捗、納期、体調、メンタルを管理できるか? | |
最新ツールを含め、さまざまな手段を使ってコミュニケーションや情報共有をできるか? | ||
自力で成果を創出できるか? | ||
仕事の裁量 | 仕事の裁量権を持っているか? | |
仕事のスケジュールを自分で決められるか? | ||
自宅の労働環境(ハード面) | 仕事に専念できる部屋(空間)を確保できるか? | |
快適に仕事ができる机やイスはあるか? | ||
ネットワークの環境は快適か? | ||
ツール・システム環境 | 安全が確保され、快適な動作環境のパソコンはあるか? | |
大型モニターはあるか?(職場で使っている方のみ) | ||
社内ネットワークやクラウドで必要な資料にいつでもアクセスできるか? | ||
コミュニケーション環境・教育環境 | 分からないこと、相談したいことがある時に、タイムリーに質問・相談できるか? | |
わかりやすいマニュアルや業務手順は整備されているか? | ||
雑談やフランクなコミュニケーションが取れる場があるか? | ||
上司はテレワークに理解があるか? | ||
上司は最低限のテレ・コミュニケーションができるか? | ||
テレワーク前の職場の人間関係は良好か? | ||
業務上、顧客とのコミュニケーションに支障はないか? | ||
業務の種類 | テレワークでやるべき仕事と出社してやるべき仕事の仕分けはできているか? | |
成果(アウトプット)が明確で評価しやすい仕事か? | ||
業務プロセスが明確で仕事が滞るようなことはないか? | ||
企業文化 | 会社(職場)はテレワークに前向きか? | |
職場の仲間はテレワークに協力的か? | ||
テレワークできず出社しなければいけない仲間への配慮ができているか? | ||
テレワークに関するルールやガイドラインが明文化されているか? | ||
家族の問題 | あなたがテレワークすることで影響を受ける家族はいるか? | |
家族はあなたが仕事に集中することに協力的か? | ||
他にオンラインで仕事や勉強する家族がいるか? | ||
人事評価 | テレワークを前提とした評価制度になっているか? |
カテゴリー別に詳しく説明していきます。
労働者の能力(適性)
これは前述の「テレワークに必要な3つの力」を換言したものです。すでにご説明済みなので、詳細は割愛します。3つの能力がすべて揃わないとテレワークしてはいけない、というわけではありませんので、誤解をしないでください。
能力の習熟をテレワークの条件にしてしまうと、恩恵に与れるのは中堅以上の社員になるので、若い社員から反発を受けそうです。
ただし、この3つの力が備わっていないメンバーがテレワークをする場合には、会社やチームとして相応のフォローやバックアップが必要になるということを理解しておいてください。
「自由にやらせて結果を出せなければ、低い評価を下せばいい」という考えもありますが、それは強者の理論です。
テレワークを導入には、そういったフォローが不可欠です。
仕事の裁量
裁量とは「自分の考えで問題を判断し、処理すること」です。
担当業務に関して、上司や先輩の指導を仰ぎながら進めている段階の社員は、テレワークになるとパソコンの前でフリーズしている時間が長くなります。出社していた時は、先輩に「ちょっといいですか?」と尋ねれば次に進めました。
しかし、テレワークでは問題が発生する度に、電話やチャットで連絡するかを考えなければなりません。連絡がつかなければ、フリーズはさらに続くことになります。
上司や先輩が「気軽に聞いてくれていいよ」と思っていても、聞く側からすれば「何度も聞くのは気が引けるな」など、ネガティブな思考が頭の中を駆け巡っているかもしれない、と慮るくらいで丁度いいと思います。
自宅の労働環境(ハード面)
オンライン会議をしていたら家族が部屋に入ってきてしまったなど、この数か月でネットの中には、たくさんの「テレワークあるある」が投稿されました。トラブルの多くは、自宅が働く場所として作られていないことによるものです。
まずは部屋(スペース)の問題です。
子どもには一人一部屋与えていても、自分の部屋がないというお父さん、お母さんは多いでしょう。
夫婦の部屋があっても、そこは寝室であり、書斎としての機能は不十分という場合がほとんどです。
また、家族とオンライン会議がかち合ってしまいヒソヒソ声で発言したり、他の家族が話している声が参加者のマイクを通じて聞こえてきたりします。
絵面は笑えますが、このような状態は情報漏洩という観点からも改善しなければなりません。今後、テレワークを推進していく上で、切実な問題となりそうです。
そして、意外と馬鹿にできないのが机とイスです。
緊急事態宣言の期間中は、ダイニングテーブルや我が子の勉強机で仕事をしたというビジネス・パーソンも多かったと思います。しかし、それらは仕事専用ではないので長時間の作業には不向きです。ダイニングテーブルで仕事をするにしてもイスをオフィスチェアに変えるなど、業務効率を考えたツール選びが重要になってくるでしょう。
次に、ネットワーク環境。
ネットワークへは、モバイルWi-Fiルーター、家庭用Wi-Fiルーター、スマホのテザリングなどで接続します。
注意すべきは、通信できるデータ総量、回線速度、同時接続数、設置場所、そして費用負担のルールです。
データ総量は、Wi-Fiルーターの場合、無制限が一般的です。
ただし、スマホのテザリングの場合、アッという間に上限に達してしまう可能性があります。
同時接続も意外な盲点。
家族全員が家にいる場合、皆さんの仕事用パソコン以外に家族全員のスマートフォン、ゲーム、テレビ、家庭用パソコンなど、思っている以上に多くの端末が接続されています。
テレワークするまでは気にも留めませんでしたが、家庭でも接続のルールが必要になるかもしれません。
Wi-Fiルーターを設置したけれど、「ちっともアンテナが立たない!!」と焦った経験はありませんか?
部屋の間取りや周辺の建物の状況によっては可能エリアであっても電波が弱いということもあるので注意が必要です。
最後に費用負担。
私物のスマホでテザリングしてギガ不足になったり、家庭用ルーターを仕事に使ったりする場合は、会社が経費として負担するのが筋です。
テレワークの推進にあたっては、先にルールを決めておくことを、おすすめします。
ツール・システム環境
テレワークで欠かすことができないツールの筆頭は、何といっても「パソコン」です。
普段、仕事で使っているものを自宅でも使う場合には問題ありませんが、日頃、デスクトップ機に大型モニターを接続して利用している本社部門のスタッフが、ノートパソコンを使わなければならないとなると、それだけで生産性は30~40%低下してしまうのではないかと思います。
加えて、過去の資料やナレッジに、容易にアクセスできるかどうかも重要です。
GoogleドライブやDropBoxの普及によって、情報共有する仕組みを持っていない企業の方が少数派です。
しかし、問題はその中身。フォルダの分け方、ファイルの名前の付け方など、統一されたルールがなく、各々が好きなようにファイルを保存しているだけという職場も多いでしょう。
このような状況で被害を受けるのは、自力で成果を創出できない新人や若手社員です。そして、彼らのもたつきは、最終的に上司、先輩へのしわ寄せとなって戻ってきてしまうのです。
コミュニケーション環境・教育環境
私は、「コミュニケーション環境・教育環境」が「労働者の能力(適性)」と同じくらい重要だと考えています。
まずは、質問・相談の環境。
オフィスで机を並べている時には、タイムリーに「ちょっといいですか?」と声を掛けることができていました。
テレワークになると、「ちょっといいですか?」のハードルが思いの外上がります。自力で成果を上げられる人にとっては些末な話ですが、誰かに助言をもらわなければ仕事を先に進められない人にとっては、重要な問題となります。
また、分からないことがあった時に「とりあえず聞く」が成立するのは、顔を突き合わせているから成せる技です。
テレワークにおいて「とりあえず聞く」の代わりになるのが、わかりやすいマニュアルや業務手順書の存在。
わからないことをGoogleやYahooで検索して解決する方法もありますが、すでに作業手順ややり方が確立されているものであれば、マニュアルを準備しておくのが最も効果的です。
「作るのが手間だ」「作ってもどうせ見ない」という意見もあるでしょうが、テレワークがスタンダードになる世界ではマニュアルの整備は必須事項になると思います。
テレワークが当たり前になってきて、クローズアップされているのが雑談です。
私たちが報連相と並んで大切にしているのが“雑気囃子(=ぞうきばやし)”です。これは、「雑(雑談)、気(気配り・気づかい)、囃子(囃し立て(=場を盛り上げる立ち回り))」の頭文字を組み合わせて作った造語です。
オンラインでの会議や商談は、用件のみのやり取りが中心となり、淡々と進行します。
参加者がオンライン会議に慣れていないことも影響しているのでしょうが、会議中の脱線や雑談もなく、サクサク進んでしまいました。
生産性向上の観点から考えると決して悪いことではないのですが、少々味気なかったのとモニターの中で静止画のようにフリーズしている参加者が気になりました。テレワークでは、そういう方への気配りや盛り上げ(=囃し立て)が重要なんだと気づかされました。
コミュニケーションの問題では、上司の存在も無視できません。
「会社に来るのが仕事」「会議は顔を合わせてナンボ」が口癖で、テレワークの価値を一向に認めようとしない上司がマネジメントする組織で生産性高いテレワークが実現するとは考えにくいです。
コミュニケーション環境の最後は、テレワーク前の職場の人間関係です。
もともと気兼ねなく話ができる人とのコミュニケーションは、テレワークになっても問題はありません。
しかし、日頃からほとんど言葉を交わさない相手に対して、テレワークでコミュニケーションを取るのは一気にハードルが上がります。
業務の種類
テレワークへの移行にあたっては、まずご自身の業務を以下の視点で分類してみてください。
- テレワークの方が捗る業務
- テレワークでも出社した場合とそん色なくできる業務
- テレワークでも支障はないけれど出社してやった方が効率性・効果性が高い業務
- テレワークでは出来ない業務(=ノンテレワークの方が捗る業務)
1と2は、すぐにテレワークへ移行すべき業務といえます。
3は、緊急事態宣言などが発令された場合は、テレワークでも致し方ありませんが、解除後は出社してやるべきでしょう。
その一方で、テレワークで実施する可能性を探りながら2へシフトしていきます。
4は当然、出社しておこなうことになります。
成果(=アウトプット)が明確な仕事、業務プロセスや作業手順が明確な仕事もテレワークに向いています。
そのような仕事は、成果獲得の判定が容易なので、自己肯定感も保ちやすいです。
一方で、自らの成果に悩んでしまうような仕事は、テレワークで体は楽になっても、社会人としての責任感から心が楽になりません。
企業文化
職場の雰囲気・ムードが、テレワークに前向きかどうかは、気持ちよくテレワークを進めていく上で、「労働者の能力」や「労働環境」「コミュニケーション環境・教育環境」以上に重要です。
理由は簡単です。雰囲気・ムードが前向きでなければ、何か問題が起こった時に、それを理由に反対の機運が盛り上がってしまうからです。
この雰囲気が起こる一つの要因は不公平感にあると言えます。
特に、テレワークできる人と出来ない人の間に生まれる不公平感には注意が必要です。
「私は毎日満員電車で出社しなければいけないのに、彼(彼女)は朝ゆっくりできてずるい」など、些細な感情のささくれが根の深い問題に発展してしまうことすらあります。
このようなトラブルを最小限に食い留めるためにも、会社としてのテレワークのルールやガイドラインを、明文化することをおすすめします。
最初は簡単なもので構いません。新しいルールが決まったら、逐次追加していけばいいでしょう。
家族の問題
テレワークをはじめると、少なからず家族へ影響が及びます。
私がオンライン会議が長男のシャワータイムと重なると着替えを取りに仕事部屋へ入ってきます。妻も私の食事を毎回準備しなければならないため、メニューを考えるのが大変だとボヤいていました。
小さいお子さんがいるご家庭では、家にいるパパやママの存在が嬉しくて、仕事中でもちょっかいを出してくるでしょう。
さすがに幼稚園に入る前の子どもに、「仕事だから静かにしていなさい」は通用しません。
共働きであればパートナーも家で仕事をしているでしょう。オンライン会議がかち合ったり、家の中の数少ないベストポジションを奪い合いあったり・・・
私的な空間に、仕事というオフィシャルなものが侵食することの弊害は、誰にとっても思った以上に大きいものです。
人事評価
おそらく、現時点でテレワークを前提とした評価制度を準備している企業は少数派でしょう。
したがって、これは近い将来に確実に起こる問題だと認識し、正式にテレワークを導入する段階で対応してください。
- 職種毎の成果をどう定義するのか?
- 定量的には測れない成果、チームであげた成果をどのように評価するのか?
- 仲間のための支援やサポートをどう評価するのか?
- 組織のためにノンテレワークしている仲間にどう報いるのか?
- 目の前にいないメンバーの「頑張っている」をどう評価するのか?
など、今、思いつくものを挙げただけでも、たくさんの課題が想起できます。
特に気になるのは「縁の下の力持ち」として裏方で汗を流している仲間をどう評価するのかということです。
以上が、テレワークで高生産性を実現するチェックリストの解説です。
テレワークは、日本的労働観や日本人の働き方との乖離が大きく、なかなか浸透しませんでした。
新型コロナウィルスの影響で、半ば強制的にテレワークに移行したばかりなので、チェックリストの各項目で問われていることは、ほとんどの企業にとって、これから解決する問題だろうと思います。
チェックリストに準えて自社の問題を整理し、計画的に解決していくガイドとしてお使いいただければ幸いです。
まとめ
新型コロナウィルスの感染拡大にともなって、十分な準備期間なしに導入することになったテレワークだったので、多くの不便や不都合があったことは否めません。ネットに氾濫するたくさんの“テレワークあるある”がそれを物語っています。
しかし、今回の新型コロナウィルスという危機が過ぎ去ったら、以前のような働き方に戻るのかと問われれば答えは「NO」です。私たちは、この10年弱の間に、地震や豪雨に起因する大規模災害、未知のウィルスの感染などの大きな問題が私たちの暮らしと隣り合わせであることを思い知りました。したがって、これらの大きな問題を前提として、有事であっても、極力経済を止めずに仕事を続けられる仕組みを作らなければなりません。
今回、体験したテレワークは盤石な仕組みづくりの序章に過ぎません。しかし、序章での学びを生かし、新しい働き方を追求する企業と、「やっぱりウチにはテレワークは無理」と新しい働き方をあきらめてしまう企業との間には、遠くない将来、埋めようのない差が出現するでしょう。
出社かテレワークかの二者択一ではなく、それぞれの特性を理解し、良さを生かした働き方を追求していただくことを切望します。
緊急事態宣言中もテレワークが適わず、それぞれの職場で奮闘いただいたエッセンシャル・ワーカーの方々に敬意を表します。
一日も早い新型コロナウィルスの収束を願って筆を止めます。皆さんに心からの笑顔が戻りますように。
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