マニュアル活用のポイントは距離感?マニュアルと組織のちょうどいい距離感

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「スープが冷めない距離」、という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
独立した子どもが所帯を持つ時に、親世帯と近すぎず、かと言って遠すぎない“ちょうどいい距離”を表した言葉です。
作った料理を届ける場合でも、冷めないうちに届けられる距離。いざという時に面倒も見られるし、必要以上に介入されなくて済むという、絶妙な距離感の代名詞として用いられることが多いです。

ちょうどいい距離というのは、ケース・バイ・ケースで各家庭によってさまざまでしょう。サザエさんのように完全同居がちょうどいい家族もあれば、二世住宅がちょうどいい家族もあります。
あえて距離を置き、年に1~2回程度しか会わない方がお互いに優しくできるケースもあります。

親子関係や嫁姑、恋人同士など、人間関係と同じで、実はマニュアルと組織にも「ちょうどいい距離感」というものが存在します
しかし、その距離感が分からないまま、マニュアルと付き合っている組織が多いようです。そして、それが組織とマニュアルの関係をより不幸なものにしているように感じます

そこで、本記事では、組織とマニュアルのちょうどいい距離感について紹介したいと思います。
ご自身の組織はどれくらいの距離感で付き合えばいいのか、実際に相応しい距離感で付き合えているのかを考えるキッカケにしていただけたら幸いです。

距離感は大きく3つ

マニュアルと組織の距離感は、大きく以下の3つに分類できます。
皆さんの印象に残りやすいように、恋人同士や夫婦の関係を表す言葉で表現しています。

  1. ラブラブ
  2. ほのぼの
  3. サバサバ

それぞれのイメージをご説明します。

01. ラブラブな距離感

フランチャイズ本部やメーカー、プラットフォームを提供するIT企業など、お客さまやパートナー企業など「外(ソト)」の人がマニュアルを使います
マニュアルのユーザーが費用を払っており、マニュアルの出来がサービスの品質、ひいては業績に大きく影響する組織をイメージしてください。

このような組織は、常にアップデートされた品質の高いマニュアルがないと事業が成り立ちません。
したがって、マニュアル作成に外部の専門家を使ったり専門部署を配したりして、マニュアルと蜜月な関係を構築します。これが“ラブラブ”と言われる所以です。

02. ほのぼのな距離感

多くの組織はこの距離感でマニュアルと付き合うことになるでしょう。
原則として、マニュアルのユーザーは社員やアルバイト、パートなど、身内に限定され、マニュアルの出来は彼らの業務品質に影響を及ぼします

「常にアップデートしなければならない」というほどではありません。アップデートの頻度やマニュアルの品質は、新しいスタッフを教育する頻度やオペレーションが変更される頻度によって決まります。

成長段階にあって積極的に社員を採用しているベンチャー企業や、外食や介護などの離職率が高いことをある程度許容しなければならない業種では、「ラブラブ」とはいかないまでも、それなりに“しっかりした”マニュアルを整備する必要があります。

しかし、マニュアルの作成を外部の専門家に依頼したり、専門部署を配するまでの必要性はないと判断されることがほとんどなので、自律性が低い組織では必要なマニュアルが整備されなかったり、マニュアルを作成するために社員が過負荷になったりと、“ほのぼの”するどころか、マニュアルと組織は殺伐とした関係になってしまうケースも目立ちます。

03. サバサバな距離感

この距離感でマニュアルと付き合う組織は、ある意味で“尖っている”と言えます。
必要最低限のマニュアルは整備するものの、業務品質や業績の向上をマニュアルに頼らない組織のイメージです。

この距離感で付き合う組織は、マニュアルがなくても業務に支障はない、むしろ、ない方が競争優位性を保てるという明確なポリシーの下で業務を推進しています。
スターバックスコーヒーや、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが有名です。

本来は、ほのぼのな距離感で付き合わなければならないにも関わらず、面倒くさがってマニュアルを作らない組織とは、明らかに一線を画すのでお間違えの無いように(笑)

いかがでしょう、それぞれの距離感はイメージいただけたでしょうか?
それでは、次に距離感を決める要素についてご説明いたします。

組織とマニュアルの距離感はどのように決まるのか?

先述の各距離感の説明の中でもいくつか紹介しましたが、距離感を決める要素を整理すると以下のようになります。

  1. マニュアルのユーザー
  2. サービスや製品が顧客に提供される際に求められるバラつきの幅
  3. 新たに組織に加わるメンバーの数
  4. 同じ仕事をする拠点の数
  5. 新しい業務が追加されたり、業務プロセスが変更されたりする頻度
  6. 業務のタイプ
  7. マニュアルに対する組織の価値観

それぞれの要素についてご説明します。

01. マニュアルのユーザー

マニュアルを使う人が、お客さまや協力会社などの「外(ソト)」の人か、社員やアルバイト、パートなど「身内」かの違いです。さらに「外(ソト)」の人の中でも、お金を払っているか否かで距離感は変わります

02. サービスや製品が顧客に提供される際に求められるバラつきの幅

同じ接客業でもホテルマンとアパレルの店員とでは、接客に求められるバラつきが異なります。
ホテルマンには高い水準で統一されることが求められますが、アパレルの店員の接客には各自のセンスが入り込む余地も大きく、そこまでの統一は求められません。バラツキも味、個性として許容されます。

03. 新たに組織に加わるメンバーの数

成長期の企業にせよ、離職が多く年中採用している企業にせよ、新加入のメンバーが多ければ、それに伴って初期教育の機会も増えます。
初期教育はマニュアルが最も活躍する場面のひとつ。相応にしっかりと整備したモノが求められます。

04. 同じ仕事をする拠点の数

飲食店や小売店のように複数の拠点で事業を展開する組織は、社員教育を担当する社員も複数に及び、彼らがおこなう教育の均質化するために品質の高いマニュアルが求められます
また、不明な点を確認したい時に、都度、教育担当者に問い合わせることもできないため、マニュアルを充実させておく必要があります。

05. 新しい業務が追加されたり、業務プロセスが変更されたりする頻度

ケータイショップのように、多頻度に新商品や新サービス、新プランが出てくる組織や、飲食店のように季節毎にメニューが変わる組織、システム開発やアプリ開発をするIT企業のような、多頻度にバグの微修正を繰り返す組織では、周知徹底の手段としてマニュアルが活用されます。

06. 業務のタイプ

私たちのようなコンサルティング会社やデザイン会社、設計事務所のように、一品受注生産型で、担当者の創造性や経験に任される範疇が大きいタイプの業務には精緻なマニュアルは不要です。

一方で、同じ作業を繰り返したり、仕様が決まっている製品を数多くアウトプットする大量生産型で、担当者の裁量が入り込む余地のないタイプの業務では、細かい点まで踏み込んで指示をしたマニュアルが必要になります。

07. マニュアルに対する組織の価値観

マニュアルに対して高い信頼を寄せている組織は、マニュアルによって業務を標準化したり、業務効率を高めようとします
一方で、スターバックスやオリエンタルランドのように、マニュアルがないことが競争優位性を生み出している組織は、マニュアルとドライな関係を構築することになるでしょう。

皆さんの組織を7つ要素でチェックするとどのような結果になるでしょうか?
しっかりチェックをすると、ラブラブな距離感とまではいかずとも、“ラブラブ寄りのほのぼの”をキープしなければいけない組織は思いの外、多いように感じます

今一度、自分の組織とマニュアルの距離感を確認してみてください。

距離感別の付き合い方

次に、距離感別のマニュアルとの付き合い方を説明していきます。

01. ラブラブな距離感の付き合い方

この距離感で付き合う組織の代表格は、フランチャイズ本部やメーカー、プラットフォームを提供するIT企業です。
ラブラブな距離感で付き合う組織は、サービスや商品を提供するお客さまに、マニュアルを使ってもらい作業の手順を理解させ、できるようになってもらわなければなりません

マニュアルに不備や分かりにくい部分があると問い合わせが入り、個別に対応をしなければならず、自らの生産性が低下させることになります。

したがって、ラブラブな距離感で付き合う組織は、マニュアル作成に手を抜いてはいけません
マニュアル作成を外注することも視野に入れ、品質の高いマニュアルをタイムリーに更新し続ける必要があります。専門部署の設置や専任者の任命を検討してもいいでしょう。

時に、マニュアルにかかる費用や人的資源の投下を惜しんで、チープなマニュアルで事業展開している企業を見かけることもありますが、問い合わせ対応やクレーム対応に追われ、二進も三進もいかなくなってから外注を模索しているようです。

もし、あなたの組織がラブラブな距離感で付き合わなければならないなら、最初から一定水準の費用や時間をかける覚悟をするべきでしょう。

02. ほのぼのな距離感の付き合い方

よほど尖った価値観を持っていない限り、多くの企業はこの距離感でマニュアルと付き合うことになるでしょう

“ラブラブ”“サバサバ”と異なり、“ほのぼの”はとても幅があります。最近の若者の言い回しを使えば、ラブラブ寄りの“ほのぼの”、サバサバ寄りの“ほのぼの”という距離感もあるでしょう。

幅はあるものの、“ほのぼの”である以上、まったくお付き合いをしないという選択肢はありません距離感を見極め、求められる最低限の品質や更新頻度を維持していく必要があります。

しかし、実際には「ほのぼの」できておらず、「ギスギス」や「イヤイヤ」付き合っている組織が多いようです。
マニュアルのユーザーが身内であり、マニュアルを作成する目的が十分に議論されないことが多いため、マニュアル関連のタスクは、どうしても優先順位が上がりません。

マニュアルを作成する専門部署はなく、基本は現場任せ。現場のスタッフもマニュアルの作り方を学んだことがありません。

下っ端のスタッフが「エイッ、ヤー!」で作って駄作が誕生し、ろくに品質のチェックも受けないまま職場に配布され、先輩たちから「使えない」という評価を受けてしまいます。
そうなると、作った本人は「もう懲り懲り」となり、次の下っ端にババ抜きのババの如く、マニュアル作成という仕事が受け継がれていきます。

ほのぼのな距離感で付き合う組織のベンチマークは、無印良品を運営する株式会社良品計画です。
『無印良品は仕組みが9割』『無印良品の業務標準化委員会』など、同社のマニュアルづくり、マニュアル活用、業務改善の様子が数冊のビジネス書で詳しく紹介されています。

上手にほのぼのな距離感で付き合えない組織と良品計画との一番の違いは、マニュアル作成に対する優先順位だと推察します。
同社では、良質なナレッジや標準化した業務プロセスをマニュアルに落とし込み、周知徹底することが経営の重要課題であるという認識の下、マニュアルの品質にもこだわり、マニュアル作成に人的資源を投下することを惜しみません。

ほのぼのな距離感でマニュアルと付き合う組織には、以下のポイントを明確にすることをお勧めします。

  • どの業務をマニュアルにするか、その基準を明確にする
  • 業務プロセスの見直し、改善があった場合のマニュアル改定のルールを明確にする
  • マニュアルの品質に責任を持つ者を明確にする
  • マニュアル作成に携わる者に作り方のポイントを学ぶ機会を与える(=我流で作らせない)
  • マニュアルのフォーマットやナンバーリング、箇条書きのルールなどを明確にする
  • 新しいマニュアルが出来た時の周知、活用のルールを明確にする

ガチガチにする必要はありませんが、余裕のある時に主要なメンバーで話し合い、明文化しておくと距離感を保つのに役立つでしょう。

無印良品は、仕組みが9割

無印良品の業務標準化委員会

03. サバサバな距離感の付き合い方

この距離感で付き合う組織の代表格は、スターバックスやオリエンタルランドなど、マニュアルを持たないことが差別化要因となり、競争優位性をもたらしている企業です。

スターバックやオリエンタルランドのように大きな組織でなくとも、サバサバと付き合う組織もあります。

宮城県にあるスーパーさいちをご存知でしょうか。おはぎが美味しいと評判で県外からも客が押し寄せる有名スーパーです。
その昔、さいちのおはぎにはレシピがあったそうです。しかし、社長が味見をして味の異変に気付いた時、その事実を指摘したら、当日調理を担当したスタッフが「私はレシピ通りに作りました」と返答してきました。

「さいちの味を覚えようとせず、マニュアル通りに作業することを仕事だと考えるスタッフを増やすだけならレシピはいらない。皆が自分の舌に覚え込ませなさい」と言い放ち、それ以来レシピを廃棄してしまいました。

さいちの事例は、いかにも日本的な筋や義の世界の話と捉えてしまいそうですが、レシピがなくても全員がさいち特製のおはぎを作れる状態になっていることは、高級割烹に置き換えると、料理長級の腕前の料理人が何人もいるのと同じであり、見事な競争優位性になっていると言えるでしょう。
スターバックスやディズニー、さいちのように自らのポリシーに悖って、マニュアルとサバサバした関係を築いている組織はまったく問題ありません。その距離感を保つことに邁進してもらいたいと願うばかりです。

問題は、本来は「ほのぼの」な関係を築かなければ事業はうまくいかないのに、理由をつけてサバサバを装っている“似非サバサバ”“カン違いサバサバ”の組織です。
これらの組織は、本当にマニュアルがないことが競争優位性を生み出しているのか、マニュアルが存在しないことで困っている社員やお客さまはいないかを考えてみるといいでしょう。

まとめ

本記事では、日頃あまり考えることのない「マニュアルと組織の距離感」について考えてみました。
マニュアルに作るか否かを考える前に、自分たちの組織が、どの距離感でマニュアルと付き合うべきなのかが分かっていれば、その後に起こるトラブルの多くは回避できるはずです。

それは人間関係とまったく同じです。サバサバ系女子にイチャイチャしようとして嫌われたり、反対にラブラブしたい男子にぶっきら棒な対応をして、淋しい思いをさせた挙句、知らないところで二股を掛けられたりするのは、ちょうどいい距離感を見誤っているからです。

皆さんも、今一度、自分の組織とマニュアルの距離感を見つめ直し、いい距離感で付き合ってください。

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小川 晴寿

経営コンサルティング会社に8年半勤務した後、ベンチャー企業の取締役として経営に参画。同社が3年で東証マザーズへ上場を果たす一翼を担う。その後、“やりがいを感じられる職場を1つでも多く増やしたい”という想いから、平堀と共にアッシュ・マネジメント・コンサルティングを設立。

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