VUCA時代の今、人材を早期戦力化するためにマネージャーがすべきこと

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かつて一人前の寿司職人になるには、「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」と言われていましたが、今は、『寿司修行3カ月でミシュランに載った理由』(宇都 裕昭(2016)ポプラ社)という本が出版されるなど、下働きから始めて、数年かけて基礎を養い、第一線の仕事に就くまでに長い時間をかけるという時代は、遠い過去となりました

このようになった背景には、終身雇用の終焉があります。

人材採用から人材育成、そして、第一線で働けるようになるまでの3段階を、企業にかかるコストと収益で表すと、次のようになります。

  • 人材採用:採用コスト(媒体掲載費用、人材紹介エージェントへの費用)
  • 人材育成:育成コスト(育成担当者の人件費)
  • 第一線で働けるようになった人材:売上、粗利益の獲得

人材採用と人材育成の段階まではコストばかりがかかり、収益は生み出しません。
そして、採用した人材は一定期間が過ぎると、1年間で支払う人件費やマネジメントにかかるコストを上回るだけの売上と粗利額を稼ぎ出せるようになります。
この時点で、単年度の収支がプラスに逆転し、ここから数年かけて、人材採用と人材育成につぎ込んだコストのマイナス分が補われます。

終身雇用が一般的だった時代は人材が長期在職していたため、寿司職人の養成の仕方のような人材育成でもコストは回収できていましたが、この前提が崩れた今、これが適わなくなりました。

採用した人材を早期に戦力化し、支払っている給与以上の収益を早々に上げもらわなければ、収支が合わない。このような経営環境に変化したのは、誰もが認める事実です。

人材を早期に戦力化して収益を上げさせられない企業は、常に収支がマイナスとなり、経営基盤が揺らいでしまうので、まさに死活問題。
今回は、企業経営の生命線とも位置付けられる、人材の早期戦力化の仕方について解説します。

人材の早期戦力化が進まない理由

よく、以下のようにぼやくマネージャーを目にします。

最近の若者は、自ら学ぼうという姿勢がないんですよね。こちらか、指示しないと何もしないんですから。これでは、いつまでたってもいっぱしになれるわけないですよ」

このようなケースに出くわすと、私たちはそのマネジャーに、こう尋ねます。

「そうですよね。確かに主体性がないと、人は成長しませんよね。ところで、〇〇さんは、メンバーの主体性を引き出すための工夫は、どのようにされていますか

すると、そのマネジャーは、こう答えます。

主体性は、自ら発揮するもので、こちらから与えるモノではないんじゃないですかね。少なくとも私は、先輩の背中を見て、見よう見まねで仕事を覚えてきましたから

このように、企業のマネジャーも「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」の寿司職人の育成と同じ問題に突き当たっています

ただし、このマネジャーに問題の矛先を向けるのは、少々可哀そうです。
なぜなら、マネジャー自身が早期育成の指導を受けた経験がないので、解決策が浮かばないのは、ある意味、致し方ないといえるからです。

人材育成の基本は、このマネジャーがぼやく通り、主体性の醸成から始まります。
本人に、その気がなければ、優れた手法を提示しても身につかないからです。

人材を早期戦力化するための3つの方法

学びたいという動機を養いつつ、担当する業務に求められる技能を習得させる。
技能を習得したことで仕事の成果が表れ達成感を味わい、また、次の技能の習得目標を設定する。
このような好循環を生む、人材育成の方法の詳細を、「主体性の引き出し方」、「主体性の醸成の仕方」、「技能の習得のさせ方」という順番で解説していきます。

01. 主体性の引き出し方

人材の主体性を引き出すスタートラインは、入社前にあります。

入社前に人材と接するのは、会社の概要説明や面接。
この時に、自社が採用したい人材像を明確に伝えましょう。

業種業態、そして社風によって求める人材像は異なりますが、必ず入れておくべき資質があります。
それが、主体性

「当社の沿革は、・・・。取扱商品や取引先は、・・・。企業理念は、・・・。となっています。そして、我々が求める人材ですが、自ら学び自ら実行するという主体性のある方に入社してもらいたいと思っています。能力や知識は、その人の努力次第で、いかようにもなりますが、この努力は、自ら何かを成し遂げたいという意思がなければ、継続しない。なので、当社では、主体性を第一義において採用活動をしていのですが、〇〇さんは、いかがですか」

と、採用時に問いかけ、「もちろん、自分は主体的に仕事に取り組みます」という言質を、人材から取っておく。
そして、採用理由の第一に、「主体性を持って仕事に取り組む」と回答したことを挙げるのです。

言質を取ると表現すると、「あなたは、主体性があるといって入社したんだよね。だから、あとは、自分でやれよ」と、突き放しための方便ととられてしまうかもしれませんが、そういう意味ではありません

「主体性が大事なのは誰でもわかっていることで、そうしたいと思ってもなかなかできるもんではない。でも、あなたが、『主体性を持って仕事に取り組みます』との意思表示をしてくれたことを我々は信じて、これから、あなたを採用し、入社後もサポートしていくので、あなたも、主体性を磨くことを諦めないでくださいね」

このように、会社と人材が信頼関係を結ぶための流れを生み出す上での言質なので、誤解のないようにしてください。

02. 主体性の醸成の仕方

「主体性を持って仕事に取り組む」と宣言をするのは、かんたんです。
しかし、それを実践するとなるととても難しい

話し方教室を題材にした小話が、主体性を持って実戦に移ることの難しさを表しています。

「本日勉強していただいた話し方について、参考になった人、挙手していただけますか。わぁ、全員に挙手いただきありがとうございます。早速、自分の意思を表示され、講習の始まりの時とは打って変わって積極的になりました。素晴らしいです。では、どなかた前に来て、本日の研修の感想を述べてくださ〜い」
「・・・」(誰も前に出てこない)

この醸成の難しい主体性は、場数と自信、そして環境によって培われます


場数とは、その人に、責任を一任する仕事の数ということです。
入社したての人材に、責任を一任する仕事なんてないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
掃除でもコピーでも、資料整理でも、責任を一任させられます。

仕事には、それぞれ目的があり、仕事を担当する人は、この目的を果たす責任を担っています。
掃除は、決められた時間内で定められた基準通りに仕上げることで、職場の人や来社する顧客の気分を満たすことに貢献しています。
コピーも、資料整理も同様に、依頼された人の役に立つためにおこなう仕事です。

各仕事に定められている目的を果たす責任を与えて、仕事が終わったら、目的が果たせたかどうかを確認しフィードバックする。
問題点があれば、それをストレートに伝え、次回には正させる。上手くできた点は、そのことを具体的に伝え、本音で褒めてあげる。
このやり取りを通じて、人材は自信をつけていきます。

自信がつくと、新たな仕事の責任も担おうという意欲が生まれます。
そして、場数が増え、場数をこなすことで自信が高まるというサイクルが回り出します。

この好循環を支えるのが、失敗をしても責められないという職場環境です。
失敗したら恥ずかしい、失敗したら、先輩や同僚、お客さんに迷惑をかける・・・
主体性を阻害させてきた負の思いを払拭させるには、「誰にでも失敗はつきもの。失敗したら、次にそれを正せばいい」という職場環境を整えましょう。

03. 技能の習得のさせ方

仕事の技能を習得させるには、先輩の仕事を見て覚えろという古い習慣をなくすことから始めます。
見るのは先輩の仕事ではなく、マニュアル

営業部門では面談用のヒアリングシート、製造部門では機械の操作手順書、総務部門では作成書類に記入事例、調理部門では調理手順書、接客部門では予約受付電話のトークスクリプト・・・

このように、部門ごとにマニュアルを整備することで、習得する技能が見える化します

マニュアルは、いつでもどこでも自分の好きな時に、自分のペースで目を通すことができます。
ここが、先輩の仕事を見て覚えるやり方と大きく異なる点です。

主体性が養われた人材にマニュアルを与えれば、自らその仕事の内容を学習し、理解できないことについては先輩に尋ねる。
先輩は、あらかじめ学習した人材に、マニュアルを基にして指導できるので、教えるのもかんたんになります。

そして、単独で仕事をやらせてみて、上手くできればそれを評価し、つまずいてしまったら、再びアドバイスをする
この繰り返しは、まさに、主体性を醸成する方法と同じです。
マニュアルがあるかないかで、仕事の技能を習得させるスピードに雲泥の差が生まれます。

まとめ

今回、みなさんに強調したいのは、主体性を身につけたいと思ってはいるものの、それがなかなか実現できないため、自分には無理かなと諦めている人材が多いという現実に目を向けることです。
この現実を認められれば、先に示した人材を採用する際に「主体性を持って仕事に取り組む」との言質を取る意義に納得していただけると思います。

入社前の人材の一言を、主体性を醸成する芽と捉えて育んでいく手法を紹介しました。
かんたんではないことは、我々も認めます。
しかし、できないことではありません。

仕事の目的を果たす責任を担わせ、その結果をフィードバックする。技能を求められる仕事は、いつでもどこでも自分のペースで学習できるようにするためにマニュアルを整備する。
そして、失敗はしてもいいんだよという職場環境を整え、粘り強く指導すれば、人は自走しだします。
自走しだした人材の育成速度が速まることは、誰もが想像できることでしょう。

人材の早期戦力化は、企業の収益性を高めるだけではなく、人材のやりがいを引き出し、明るく前向きな職場になります。
おっかない親方に睨まれながら、恐る恐る仕事を覚える職人の時代は、遠い昔となったのです。

寿司修行3カ月でミシュランに載った理由

平堀 剛

大学卒業後、電機メーカーに就職。先端技術の開発に汗を流すエンジニアを目の当たりにし、自分も何かをしたいと一念発起。学生時代からの夢、事業家(経営のプロ)を志しコンサルティング会社に転職。数多くの業界の経営実務に携わり上場(マザーズ)も経験した後に、小川とともに当社を起業。

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