「チェックリスト」は誰もが知っていて、どの職場にも存在するツールですが、それを使いこなしている企業は意外に少ないようです。
チェックリストは、上手に使いこなすことで、生産性の阻害要因といわれている、仕事の手戻りを削減できます。
仕事の手戻りとは、作業をある程度進めたものの、あることが不足しているがために、イチから作り直しになってしまうことです。
上司から依頼された企画書を作成したところ、やり直しを命じられたり、外出先で、忘れ物に気づいたりというように、みなさんの身の回りでも、仕事の手戻りは度々発生しているのではないでしょうか。
チェックリストは、このような不備をなくす上での便利ツールなのです。
この記事ではチェックリストの有効な活用法について紹介します。
チェックリストの意味と意義
チェックリストは、人間が不完全な生き物である限り必要不可欠なツールです。なぜなら、人間にはミスがつきものだからです。
人間がミスをする原因は、「生理的身体的特性」、「集団の心理的特性」、「認知的特性」の3つに分類されます。
ひとつめの「生理的身体的特性」とは、疲労の蓄積によるミスの発生や、睡眠不足によるミスの発生などを指します。
2つめの「集団の心理的特性」は、不安があっても上司の指示には反論できない心理的バリアに起因するミスや、周囲の人の意見に影響されて自分の意見を主張できない、同調行動から発生するミスなどを指します。
3つめの「認知的特性」とは、人間が「ものを認識する、記憶する、判断する、意思決定する、記憶する」といった脳の中で起こる過程から生じるミスなどを指します。
認知的特性から発生するミスを、医療事故を事例にみてみましょう。
医療現場では、手術における遺物残存、医療機器の使用に関連した事故、患者の取り違えによる薬の投与など、高度医療に従事しているドクターや看護師でも、このようなミスを繰り返しています。
彼らは、決して手を抜いているわけではなく、真剣に医療行為をおこなっているにも関わらず、このような事故が発生してしまいます。
また、医療のような人命にかかわらない業務において、ミスが及ぼす最大の無駄は、業務の手戻りが挙げられます。
例えば、10個の部品点数で完成する製品があるとします。
10個の部品を全部揃えて組み立て現場に行ったものの、ひとつの工具を忘れてしまったため作業ができない、または、10個揃えたつもりでも、そのうちの小さなナットひとつがなかったために、製品を組み立てられない、といった事態が生じたとします。
すると、忘れた工具、あるいは、不足したナットのために、会社に戻らなければならなくなります。
このように、たったひとつのモノがないがために作業が進まない、完了できない、このような無駄は、各職場で発生しています。
人間がミスをするのは当たり前。その当たり前による事故や、手戻りによる生産性の低下を防ぐために、チェックリストが存在するのです。
チェックリストの活用例
チェックリストを有効に機能させるには、チェックリストによる日常の点検をルール化するだけにとどめず、チェックリストの活用実態の把握や、チェックリストの活用結果のフィードバックが、重要です。
チェックリストを活用したことで、交通事故の発生を劇的に削減した事例を紹介しながら、チェックリストの活用方法について解説します。
とある会社では、従前から「交通事故の発生0」の目標を掲げて、安全運転の強化月間を設けたり、事故が発生した場合には、その事故の詳細をレポートにまとめて関連部門に発信するというようないった対策を講じていましたが、思ったような効果が出ていませんでした。
そこで、車両点検リストを作成し、ドライバーには、このリストを活用して、車両や自身の健康状態に問題がないかどうかのチェックを、毎朝、出発前におこなうように義務付けました。
結果、前年対比の事故発生件数が50%低下。
一見、車両点検リストに準じた確認をドライバーが毎朝おこなったことでから、このような大きな成果が出たと考えられますが、実はそうではありません。
チェックリストの実施に加え、組織全体でチェックリストの活用実態を把握し、結果の集計をおこなったのです。
具体的には、月に数回、運送部門の責任者が、車両点検をしているドライバーの実態を、抜き打ちで立ち会い確認しました。
さらに、全車両にGPSを搭載。車両運行の実情をデータに残す仕組みを導入しました。
このシステムでは、速度超過、急発進、急停止、長時間運転などのデータが採取されます。
こうすることで、チェックリストを実際に活用しているのかどうか、目で見て確認することができます。
チェックリストは自己管理にとどめず、組織全体でチェックリストの活用実態を把握し、活用成果を記録に残すことで、目的の達成に結びつくことがわかります。
チェックリストの種類
チェックリストは、「事前確認」、「予防」、「診断・評価」、「対策立案」、「視点補助」の5つに分類されます。
それぞれの種類について詳しく解説していきます。
01. 事前確認
事前確認に分類されるチェックリストは、海外旅行の持ち物の確認や、行政機関への提出書類の確認などが該当します。
海外旅行の場合、パスポートや旅券、渡航先の紙幣への両替、プラグ、機内に持ち込めない荷物など、現地へ行ってからないことに気づいて困らないようにするために、事前確認をおこないます。
行政機関への提出書類の確認も、管轄窓口に訪問した際に、代表印や印鑑証明、納税証明書など、不足や不備があると受け付けてもらえなくなるため、事前に抜かりなく確認する必要があります。
02. 予防
予防に分類されるチェックリストは、車両点検や生活習慣病に関連した質問などが事例として挙げられます。
このチェックリストの確認項目で「×」になった項目を「〇」に改善すると予防につながる、とてもシンプルな形式です。
車両点検では、バッテリーやエンジンオイルの液残量、タイヤの空気圧、ブレーキのきき具合の確認など、何か不具合があれば事故に直結する点検をおこなうことで、事前予防に結びつきます。
生活習慣病も同じで、食生活や運動、飲酒・喫煙に関する習慣を見直すことで、各種の病気の発症を未然に防げます。
03. 評価・診断
評価・診断に分類されるチェックリストは、人事評価制度の評価シートや健康診断の結果報告書の一覧になります。
人事評価は、各評価項目の評価定義に則り被評価者を採点し、昇格や賞与の基準として使われています。
健康診断の結果報告書は、検査項目ごとに測定値が入力され、規定の範囲を超える、あるいは下回ると、再検査を促されます。
04. 対策立案
対策立案に分類されるチェックリストは、企業面接や営業訪問の前に活用すると、面談者の印象を良くしたり、相手からの不意の質問にも答えられるようにするために役立ちます。
面接で想定される質問を想定して、その回答を事前に考える行為が面接の対策になりますし、営業でも面談先の企業の情報や同業界の最新のトピックスなど、チェックリストに設定された項目を事前に準備して営業に臨めば、面談のパフォーマンスが高まります。
05. 視点補助
視点補助に分類されるチェックリストは、「5W1H」、「PDCA」など、業務の段取りをつける時に活用すると、自身の発想や着眼の不足点を補い、より質の高いアウトプットを生み出せます。
多くの人が認知している5W1HのWho(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)という視点ですが、Who(だれが)に該当する担当者やWhen(いつ)という納期を定めないまま会議が終了してしまう事例は枚挙にいとまがありません。
また、PDCAのPlan(計画)Do(実行)Check(評価)Action(改善)ですが、計画は練ったものの、Do(実行)のスケジュールやCheck(評価)のルールを定めないまま、プロジェクトを立ち上げ、すぐにとん挫してしまう事例も多々ありますね。
作成したチェックリストの有効な使い方
チェックリストは、チェックして明らかになった抜け漏を補ったり、あぶり出された課題に対処しなければ、効力は発生しません。
チェックリストに効力を持たせるには、 「基準の厳格運用」、「ダブルチェック」、「効果測定」の3つをルールに盛り込む必要があります。
「基準の厳格運用」では、チェックリストに定めた項目の質問や基準を満たしていない場合には、例外なく「×」の評価をくだすのを厳命しなければなりません。
もし、この規則を破った場合には、ペナルティを課すことを明文化してもいいでしょう。
基準の厳格運用をおこなっていたとしても、チェックミスは発生します。
そこで、「ダブルチェック」によってミスのカバーをはかります。
持ちものチェックリストの用途が海外旅行ではなく、冬の高地登山に例えると、ひとつの装備を忘れたがために命を失ってしまうかもしれません。
人はミスをする動物という前提に立って、ダブルチェックをおこないましょう。
最後に、チェックリストを活用する目的に、かなった効果が出ているのかどうか、「効果測定」をおこないます。
効果測定をおこない、チェックリストの活用者にフィードバックをしないと、活用による成果実感を持つことができず、チェックリストはいつの間にか使われないモノになってしまいます。
まとめ
仕事に着手する前、あるいは、上司から仕事を指示された際や、ある企画を考案するヒントとしてチェックリストを上手につかいこなせば、仕事の生産性を阻害する要因である手戻りをなくせます。
仕事への慣れや油断に流されないために、チェックリスト活用一覧表の作成を最後におすすめします。
一覧表を基にして、チェックリストの活用を促し、どんな人間でもおかしてしまうミスの未然防止に努めましょう。
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